若い地球と進化論

地球の歴史や人間の起源について考えるブログ

ラミダス猿人~アルディは最古の人類?

年の瀬を迎え、今年一年を振り返ることも多いと思います。さて、私たちの祖先はどうだったのでしょうか。チンパンジーと人間の共通祖先から進化したというのは果たして本当なのでしょうか。今回は「ラミダス猿人」についてお話したいと思います。

 

1 人類最古の祖先というのは本当なのか?

遺伝学電子博物館によれば、人類は、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーの順に分岐、進化し、最後に分岐したチンパンジーと人類との共通祖先は、最古の人類直接の祖先であるとされています。現時点で最古の祖先とされているのは、アルディピテクス・ラミダス、通称”アルディ”の名で知られる「ラミダス猿人」です。

アルディは、1992年、当時カリフォルニア大学の学生であった、エチオピア出身のセラッシさんと、彼の指導教授であったラブジョイ博士によってエチオピアで発見されました。Ardiとは「地面」を意味し、Ramidとはエチオピアの現地語であるアファール語で「根」を意味します。つまり、アルディピテクス・ラミダスには「地面で暮らす人類の祖先」という思いが込められているのです。

アルディの解析には、何と17年を要し、2009年10月と12月にサイエンス誌の表紙を華々しく飾りました。

左)2009年10月   右)2009年12月


最古の祖先が発見された!というセンセーショナルな発表の陰で、アルディの解析を行ったチームは、BBCのインタビューにおいて、本当に人類の祖先なのかどうかは、さらなる調査と時間が必要だと結論づけています。つまり最古の祖先とは言い切れない、ということです。BBCのインタビュー記事もリンクをのせておきますので、興味のある方はご一読をお勧めします。

Asked whether A. ramidus was our direct ancestor or not, the team said more fossils from different places and time periods were needed to answer the question.

 

2 アルディは本当に直立歩行していたのか?

ある類人猿の化石が人類と直接の祖先なのかどうかは、直立歩行の特徴があるかないかによって判断されます。その証拠として挙げられるものに2つあります。一つは頭骨と頸椎をつなぐ「大後頭孔の位置」。これが、頭骨の真ん中にあれば直立歩行、真ん中よりも後ろよりなら四つ足歩行をしていた証拠とされます。下図(左)は、チンパンジーと人間の大後頭孔の位置の比較です。人間の大後頭孔の方が頭骨のより中心にあるのがわかるでしょうか。

もうひとつは、頸椎~胸椎~腰椎全体で形成される「弯曲の形状」です。S字の弯曲なら直立歩行、C字なら四つ足歩行というわけです。下図(右)は、ゴリラと人間の椎骨の比較です。ゴリラはC字型、人間の背骨は胸部では後ろにつきでた後弯、腰部では前につきでた前弯を認め、S字型を示しているのがわかります。

ヒトはいかにして生まれたか(尾本恵市 講談社学術文庫 1998年)より改変

それでは、アルディに直立歩行の証拠はあるのでしょうか。上記のBBCのインタビューでもわかる通り、人類の祖先かどうかについては決着が着いていません。それもそのはず、わずかソフトボール大の頭骨はつぶれて発見されたので、大後頭孔の位置は特定できません。また、頸椎から腰椎までの椎体はほとんど発見されておらず、弯曲が実際どうだったのかを推定することができません。

アルディについて発見された骨だけをみれば、現存する樹上生活を送るサルの種類と何ら変わりありませんしかし、進化論を信じ、人間の祖先はこのような姿であって欲しいと願う科学者たちが、これでもかというくらい想像を膨らませて描くと、サイエンス誌の表紙(2009年12月号)を飾った絵のような姿になるのです。サイエンス誌の表紙、9月号と12月号を見比べてみてください。左の骨の写真から、右の想像図が一体どうやったらできあがるのでしょうか・・・

 

私たち人間とチンパンジーが似ているのは、共通の祖先から進化したからではなく、デザイナーが同じだから、つまり、同じ創造主である神が、人間とチンパンジーを造ったから、なのかもしれません。

 

詳しくは、ジェネシス・アポロジェティクス(創世記的弁証論)という米国の団体が作成したビデオ「アルディピテクス・ラミダス」を御覧ください。

 

進化は事実だった?進化論の科学性について

日本では、進化は事実であったと考えている人が多いと思います。進化は事実なので、進化論ではなく進化学だという人もいらっしゃるようですが、その根拠はどこから来ているのでしょうか。進化論は証明されたのでしょうか、あるいは証明できるのでしょうか。今回は、進化論の科学性について検証してみたいと思います。

 

まず最初に、科学の定義について確認しておきましょう。文部科学省の前身のひとつ、科学技術庁のサイトには、科学について下記のように定義されています。少し古いですが、紹介します。

「科学」は、広義には、およそあらゆる学問の領域を含むものであるが、狭義の「科学」とは、とくに自然の事物、事象について観察、実験等の手法によって原理、法則を見いだす、いわゆる自然科学及びそれに係る技術をいい、その振興によって国民生活の向上、社会の発展等が図られるものである。

第3回 21世紀の社会と科学技術を考える懇談会(H11.5.26 科学技術庁)より

 

要するに、広義に言えば、全ての学問は科学であり、狭義には、実験によって原理・原則をみいだせるものが科学、すなわち、誰もが実験でき、その結果を得ることができ、その結果がが常に同じであるもの=原則をみいだせるものが、狭義の科学と言えるでしょう。

 

では、進化論は、広義か狭義かどちらの科学なのでしょうか。ここで「2つの科学」という考え方を紹介します。ひとつは実験科学、もうひとつは実験科学です。両者の特徴と違いについて、まとめてみました。

 

A) 実験科学(Operational Science)

① 実験によって原理・原則をみいだすもの。つまり「実験して観察し結果を得る」というプロセスが繰り返し可能です。前述の定義に従えば「狭義の科学」となります。

② 同じ方法で実験をすれば、誰がやっても同じ結果になり、その結果がでる確率は100%なので証明の科学ともいえます。

 

B) 歴史科学(Historical Science)

① 過去に何が起きたかを推測するもの。過去に起きたことは実験できない、つまり、原理・原則は見いだせないので「広義の科学」です。「現在観察できること」をもって「過去に何が起きたのか(=解釈)」についての「証拠」とします。創造論も進化論も「歴史科学」に分類されます。

② 過去に起きたことは証明できません。過去に何が起きたのかという「解釈」が本当に正しいかはわからない。「証拠」を見せられた人が、「解釈」について賛成か反対かを表明するので告白の科学とも言えます。ただし、注意点があります。

 

《証拠は、解釈抜きには語れない》

観察結果を解釈で色付けしたものが証拠です。解釈の正しさを示すために、複数の証拠が挙げられますが、賛成か反対を表明するのは、解釈に対してです。

 

《告白は、権威の影響を受けやすい》

証拠を提出した人の方が、証拠を見せられた人よりも、知識が豊富であるため、告白は、その人の権威に影響を受けやすいという特徴があります(例:大学教授)。

 

歴史科学の具体例を挙げてみましょう。

 

「尾骨は、人間が猿から進化したことの証拠である」という主張があったとしましょう。これを、歴史科学的に説明すると以下のようになります。

 

現在観察できるもの:突起物(尾骨)が触れること

過去に何が起きたのか(解釈):人間は猿から進化した

 

けれども、聖書を信じるクリスチャンであれば、「デザインが似ているのは、同じ創造主が造った証拠である」と主張するでしょう。説明は以下のようになります。

 

現在観察できるもの:突起物(尾骨)が触れること

過去に何が起きたのか(解釈):人間も猿も同じ創造主から造られた

 

となります。つまり同じものを観察しているのに、解釈が異なるために、証拠の持つ意味が変わってくるのです。

 

さて、十分に理論武装したところで実践編です。下記のような記事についてどう解釈したら良いのか、実際に考えてみたいと思います。

 

進化論を信じている人にとっては、進化論は事実だから当然、と思えるような記事ですが、私たちのようなクリスチャンにとっては、衝撃的な記事です。

先ほど、「証拠」について、権威の影響を受けやすいと言いましたが、まさに権威に圧倒されて、進化論は事実だったのかと観念してしまいそうですね。心の中の葛藤は、下の取調室のような状況ではないかと思います。

心の中で「進化論の権威」に圧倒されている図

 

歴史科学で学んだ知識を生かして、この記事の内容を詳細に検討してみましょう。

 

まず初めに「これは実験科学の記事なのか歴史科学の記事なのか」という点です。実はここが非常に重要なところです。というのは、実験科学なら証明可能、歴史科学なら証明不可能となるからです。

このことについては、後で詳しく考察しますが、記事が主張しているのは「クジラとカバの祖先は共通である」ことですから、過去に起きたことについての推測、つまり歴史科学となります。ですから、記事で「証明」という言葉が使われているのは間違いだということがわかります。

 

では、歴史科学的に掘り下げていきましょう。

 

「現在観察できるもの」は何かというと、牛、豚、羊など7種の偶蹄目のうちクジラとカバにしか存在しない遺伝子(レトロポゾン)が見つかった、ということです。

「過去に何が起きたのか(解釈)」は、牛、豚、羊など7種の偶蹄目のうち、クジラとカバが最も近縁で、約6~7000万年前に共通の祖先から枝分かれした、ということになります。

 

ですから、この記事を科学的に正確に書くとするならば以下のようになります。

「牛、豚、羊など7種の偶蹄目のうち、クジラとカバだけにある遺伝子がみつかった。これは、7種の偶蹄目のうち、クジラとカバが最も近縁で、約6~7000万年前に共通の祖先から枝分かれしたことの証拠である」となります。

 

元の記事では「クジラとカバは、約六千万~七千万年前に共通の祖先から枝分かれしたことが証明された」と書かれており、証明という言葉が使われなくなっただけで、だいぶ印象が変わったのではないでしょうか。

 

それでは、記事を書いたサイエンスライターは、なぜ「証拠」という言葉を使ってしまったのでしょうか。その理由には2つ考えられると思います。

ひとつは、2つの科学(実験科学と歴史科学)の違いを知らなかった可能性、もうひとつは「現在観察できるもの=遺伝工学」は、誰もが実験して試すことができる実験科学だからです。実験科学の手法で歴史科学をやるという複雑性のゆえに、歴史科学の議論で「証明」という言葉が使われてしまったのでしょう。

 

今回のまとめです。

  1. 進化論は歴史科学。だから証明できない。賛成か反対かを告白するが、告白は権威の影響を受けやすい
  2. 同じものを観察しても、解釈が異なると、証拠の持つ意味が全く変わってしまう。
  3. 歴史科学で実験科学が用いられることがある。観察は証明可能だが、解釈そのものは証明できない。

進化や人間の起源に関する記事や番組をみるとき、今回ご紹介した歴史科学の手法を用いて、製作者の解釈に誘導されることなく、正しく判断するようにしたいですね。

 

darwinkieta.hatenablog.com

 

人間とチンパンジーのDNA、一致率はせいぜい84%

DNA一致率の計算にはウラがある

もう3年も前になりますが、このブログで ヒトとチンパンジー(1)遺伝子の99%は同じ? という記事を載せました。今でも、人間とチンパンジーのDNAは98%以上一致している、とよく言われますが、この数値がどのように導き出されたのかについては、ほとんど知られていません。

両者のDNAが98~99パーセント同じであるという考えは「人間とチンパンジーが約500万年前に共通の祖先から分かれて進化した」という仮説の証拠としてよく使われています。それは、両者に起こる突然変異の速度を考えると、現時点で98~99%程度一致しているのが、計算上ちょうど良いからです。

 

今回は、アメリカの Genesis Aplogetics(創世記による弁証論)という団体が作ったビデオ"Human Chimp DNA Similarity--Is it really 98%?"を紹介します。このビデオによれば、人間のチンパンジーのDNA一致率は実際のところ84%程度にしか過ぎず、人間とチンパンジーには埋めることのできない大きな隔たりがあると述べています。

 

人間とチンパンジーの共通遺伝子:DNAの98%が一致しているって本当?

www.youtube.com

 

ビデオの中でも取り上げられた「人間とチンパンジーの遺伝子の一致率は、84%程度」という論文を紹介します。

著者は、2016年の研究で、チンパンジーDNAのヒトとの類似性は85%以下であることを発表していますが、今回、NCBI(National Center for Biotechnology Information) からダウンロードした、18,000 の 新しいDNA配列について、BLASTN(Basic Local Alignment Search Tool)法により、研究を行いました。その結果、類似性は 84%であったと結論しています。また、これまで、類似性の研究に用いられてきた、チンパンジーのリファレンスゲノムは、人類は進化してきたというパラダイム(世界観)を前提としており(言い換えると、類似性が高くでるように作成され)極めて大きな欠陥があったと指摘しています。

answersresearchjournal.org

 

実際の一致率がこれほど低いのに、さして話題にならないのはなぜでしょうか。それは、両者のDNAに、埋められないほどの大きな違いがあると認めてしまうと、人間とチンパンジーは、約500万年前に共通祖先から分かれ、現在の姿への進化をとげたというストーリーだけでなく、他の全ての生物においても進化のストーリーを書き換える必要が生まれ、進化論の土台が崩れてしまうからではないでしょうか。

84%程度の一致率が示すのは、人間とチンパンジーは共通祖先から分かれて進化してきたのではなく、同じデザイナー、すなわち、聖書に書かれている通り、同一の創造主によって作られた生き物であるということなのかもしれません。


私たち人間には、生まれつき、信じたいものを信じるという性質があることは、肝に銘じておく必要がありそうです。

 

darwinkieta.hatenablog.com

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映画:信仰の選択「進化論vs創造論」の紹介

ブログの更新がすっかり滞ってしまいましたが、ブログが終了したわけではありません。あきらめずにチェックしてくださっている方、心より感謝申し上げます。

最近、友人から紹介されたビデオ(日本語字幕付き)です。さすが、アメリカですね。クリスチャンの子どもを持つ身として、また創造論信仰に立つ我が身として、非常に共感を覚えました。

クリスチャンではない方にもエンターテイメントとして楽しめると思いますので、是非ご覧になってください。


映画   A matter of Faith(信仰の選択:字幕付き)

[あらすじ]クリスチャンのレイチェル・ウィタカーは大学へ進学するが、「進化論が命の起源」と生徒に教える人気の生物学教授ケイマンから影響を受ける。レイチェルの変化を察知した父スティーブンは、状況の調査に乗り出すが、予想外の発見に驚く。信仰から離れていくレイチェルのためにスティーブンは立ち上がる決意をする。

www.youtube.com

もし、日本語の字幕が現れない場合は、画面右下の歯車「⚙」をクリックし、字幕から「日本語」を選んでください。

 

コロナウィルス:聖書の視点から

2020年1月に始まった、日本におけるCOVID‐19、通称コロナウィルス感染。

ウィルスが変異を重ね、現在のオミクロン株になり感染者は増えていますが、重症化する割合が減り、日本政府の対応や国民の意識も変わってきたように思います。

 

聖書には、唯一の創造主である神が天地万物を創造したと書かれており、ウィルスも例外ではありません。聖書の視点では、コロナウィルスをどう理解すればいいのでしょうか。今から2年前、CMI(Creation Minisitries International)というクリスチャンの創造論伝道の団体が作成したビデオを紹介します。

ロバート・カーター氏(Robert Carter)は、生物学者ですが、ウィルスは本来良いもので人間に有益であるが、種を超えて感染すると病原性を発揮する。しかし、の病原性は、突然変異を繰り返すことによって弱毒化すると述べています。

 

創造におけるコロナウイルス - creation.com

カーター氏の考え方は、自身の研究(下記参照)すなわち、1918年のスペイン風邪を引き起こしたインフルエンザウィルス(いわゆるH1N1)が突然変異を繰り返した結果、2009年、ついに自然消滅した、という観察結果に基づいています。

A new look at an old virus: patterns of mutation accumulation in the human H1N1 influenza virus since 1918 「古いウィルスを新しい視点でみる~H1N1インフルエンザウィルスの突然変異の蓄積から~」

 

カーター氏によれば、突然変異は新たな適応を獲得する場合もあるが、多くの突然変異は適応力をもたないため、自然消滅してしまうのだそうです。

軽症化するコロナウィルス感染の現状をみると、2年前にカーター氏の言っていた通りのことが起きており、非常に説得力があります。ワクチン開発前のパンデミック中に、このように発言するのは非常に勇気がいったことでしょう。

 

進化論では、生き残りの原動力とされている突然変異ですが、実際の観察結果によれば、突然変異はむしろ消滅を運命づけられているように思われます。是非、ごらんください。

人類・人種の起源(ビデオ)

大変ご無沙汰しております。

2021年も残すところあとわずかとなりました。

今年は忙しくて記事が書けなかったのですが、敬愛する友人の安井亨さんのご講演がとてもおもしろかったので、こちらでシェアしたいと思います。

是非、最後までご覧ください。

 

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虫垂は無用の長物?~痕跡器官と進化の証拠~

久々の更新です。今年も残すところあとわずかとなりました。

 

「昔、盲腸をやりました」という人をご存じの方も多いと思います。正しくは「虫垂(ちゅうすい)が炎症を起こしたため、急性虫垂炎となり、手術によって「虫垂」を切除しました」ということを意味しています。盲腸と虫垂はつながってはいますが、異なる臓器です。

かつて、虫垂は有用であったが、今では役に立たない無用の臓器であるから、手術で取っても構わない、と考えられていた時代もありました。また、人間の虫垂は進化の証拠、いわゆる「痕跡器官」である、と信じている方もおられるようです。

今回は「虫垂」を例に、①虫垂は本当に無用の長物(ちょうぶつ)なのか、痕跡器官は進化の証拠なのか、について考えてみたいと思います。

 

 

1.虫垂は無用の長物なのか?

 

【虫垂は腸の一部】

腸というと一般的に小腸と大腸のことを指します。小腸は胃と大腸をつなぎ、口に近い方から順に「十二指腸、空腸、回腸」と呼ばれます。大腸は小腸と肛門をつなぎ、口に近い方から順に「盲腸、結腸、直腸」と呼ばれます。小腸(回腸)は大腸の途中につながるので、大腸の片側は盲端になっており、そのため盲腸という名前がついています。虫垂は盲腸から垂れ下がっている、長さ約5cm、太さ約5mm位のイモムシ型の臓器です(図1参照)。虫が垂れるので虫垂というわけです。虫垂の長さは個人差があって、最長20cm位になる人もいるようです。

 

図1 回腸~盲腸接続部(回盲部)の解剖

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Vermiform Process:虫垂 Cecum:盲腸 Colon:結腸 Ileum:回腸

盲腸 - Wikipedia より

 

虫垂炎とは?】

虫垂炎は、虫垂の入り口が何らかの原因で(例えば糞石など)せまくなり、中で細菌が増殖することで炎症を起こし、虫垂の内圧が高くなって痛みが生じてきます。症状が進むと虫垂が破れ(いわゆる穿孔という状態)、細菌がおなかの中に散らばって腹膜炎を惹き起し、命取りになる場合もあります。

虫垂炎の生涯罹患率(一生の間に虫垂炎になる確率)は10%程度と言われ、入院が必要な腹痛の代表的な疾患です。画像診断が発達する前は、確定診断がつかず、まずはおなかを開けて中を見てみようと手術になることや、別の手術のついでに虫垂もとってしまったということもあったようです。

その背景には、虫垂は生理的には機能をもたない「痕跡器官」であるため、将来虫垂炎を起こさないように予防的に切除してもよい、という考え方があったことも大きく影響しているでしょう。

しかし、最近では、超音波やCTなど画像診断の進歩、虫垂の役割が詳しくわかってきたたこと、入院費用や手術による合併症、将来腸閉塞になるリスクなどが考慮され、手術ではなく保存的に、つまり抗生物質で治療する(いわゆる、散らすというやつですね)ことも増えてきました。

 

虫垂炎の治療】 

"The New England Journal of Medicine"は、世界で最も権威のある医学雑誌のひとつです。この雑誌の2015年5月のある号に「Acute Appendicitis - Appendectomy or the "Antbiotics First" Strategy (急性虫垂炎-緊急手術か、まず抗生物質か?)」というタイトルの論文がありました。無料ではみることができませんが、この論文のポイントは以下の5点です。

  • 急性虫垂炎には今でも手術が第一選択である。
  • しかし、最初に抗生物質で治療開始しても、手術と比べ虫垂穿孔をきたすなどの合併症が増えるわけではない。
  • 抗生物質で治療した場合、後々一定の割合で再発し手術となる人もいる。
  • 虫垂は、腸内細菌を正常化させる働きがあると考えられている。
  • 虫垂を切除すると「偽膜性腸炎」という感染症が再発しやすくなる。

 

【虫垂の機能】 

かつては「無用の長物」と揶揄(やゆ)されたことのある「虫垂」ですが、免疫学的に重要な役割を果たすリンパ組織であり、いわゆる善玉菌の貯蔵庫となっていて、腸内細菌を正常に保つ重要な働きがあるという考えかたが主流となってきています。しかし、逆に虫垂を切除した方が、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の発症を抑えることができたという報告もあり、虫垂の存在の是非については、まだまだわからないことも多いようです。

医師になりたての研修医であれば、一度は目を通したことのある「レジデントノート」という雑誌に虫垂についての特集がありました。医療関係者、興味のある方は、下記をご一読することをお勧めします。

【第11回 虫垂は無用の長物か?】~レジデントノート2015年8月号より

 

 

2.痕跡器官は進化の証拠なのか?

 

痕跡器官とは?】

痕跡器官」とは何でしょうか。痕跡器官の具体例として、虫垂の他に、尾骨、耳を動かす筋肉、クジラやニシキヘビの後ろ足などについて聞いたことがあるかもしれません。痕跡器官について、Wikipediaには次のように紹介されています。

生物の進化の過程で、ある器官が次第に縮小、単純化してゆくことを退化という。退化が進めば最終的にはその器官が消失してしまうことはまれでない。このような過程で、わずかにその存在が認められるものが痕跡器官だと考えられている。(中略) 痕跡器官の存在は、生きた生物に於いてこの途中を見ることができるものとして、重要な証拠であり得る。

上記では、痕跡器官の存在は進化の証拠である、と述べられていますが、実際のところ、縮小、単純化していく様を誰もこの目で見て確認したことがないので、本当に退化してきたのかどうかはわかりません。つまり痕跡器官とは、進化論が正しいと仮定した時に、ある生物群の進化の道すじを説明するひとつの考え方に過ぎない、ということに注意が必要です。

 

【虫垂が痕跡器官となった背景】

かつて虫垂が痕跡器官だと考えられていた理由は、ウマのような草食動物では、人間と比べ盲腸や虫垂が長くて大きいからだとよく言われています。例として、人間とウサギの消化器系を比べてみましょう(図2参照)。

 

図2 人間とウサギの消化管の比較

 

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 引用元:”Better Late Than Never" 生物学 第2版 第34章 動物の栄養摂取と消化器系 - Japanese translation of “Biology 2e”より 

 

つまり、草食動物は人間より大きな盲腸や虫垂を持っている。草食動物は人間よりも下等な動物である。だから、草食動物では有用だった盲腸や虫垂は、進化の過程で不要になった、つまり痕跡器官だというわけです。けれども人間と草食動物のどちらが進化しているか、比較できるのでしょうか。草食動物の消化管は、一般的に肉食動物の消化管より長いです。これは食物となる草木は消化に時間がかかるからです。食生活が異なれば、生理機能も当然異なるので、全ての違いを進化で説明するのは無理があるように思います。

虫垂が痕跡器官であるという考え方には、まだおかしな点があります。痕跡器官の本来の意味は「進化の過程で縮小、退化してきたもの」ですから、比較するべきモノは(ウサギと人間の)共通祖先の「臓器」と人間の「臓器」であるべきではないでしょうか。図2では、ウサギと人間の盲腸の違いの方がわかりやすいので、盲腸を例に下図に示します(図3参照)。

 

図3 進化論に基づくウサギと人間の進化の道すじ 

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進化論では、ウサギと人間の共通祖先とされるものがいたはずだと信じられていますが、それがどんな生物だったのか、現時点ではわかっておらず、当然化石も特定されていません。もし、今後これが共通祖先ではないか、という化石がみつかったとしても、化石に臓器が残っているはずはないので、比較することはできないでしょう。ある臓器について、祖先と比較することができなければ、痕跡器官の定義自体もおかしなことになってしまいますね。

 

まとめ 

以上述べてきたように、痕跡器官とされてきたものの中に新たな役割が発見され、決して痕跡とは言えないことが明らかになってきました。虫垂以外では、脾臓にも新たな役割が解明されたというニュースがありました(2009年と少し古いですが)。

 

また、ある臓器が痕跡器官であるとする考え方は常に誤解を生んでいます。なぜなら、痕跡器官について比較される生物同士は(ウサギと人間のように)ともに現代に生存しており、進化の道すじにおける祖先と子孫の関係にないという問題があるからです。

 

今年の記事はこれが最後となります。今年もブログを訪れてくださりありがとうございます。不勉強な部分も多々ありますが、来年もわかりやすい記事をお届けしたいと考えています。よろしくお願いいたします。