みなさま、ハッピーニューイヤー!
年改まって2019年、最初の話題は「年代測定」についてです。
年代測定と言えば、放射年代測定のことを言います。放射年代測定法とは、不安定な物質(=放射性物質)が、放射能を放出する(=崩壊といいます)ことによって(放射能を持たない)安定な物質に変化していく性質を利用し、ある物質に残存する放射性物質の量を測定することで、その物質がどれくらい古くから存在するのかを推定する方法です。
昨年、私が持っている、アンモナイトの化石が「いつの年代のものか」を知りたくて、炭素を使って年代測定をしてくれるある会社に問い合わせしたことがあります。すると電話で応対してくれた方が、「炭素では、せいぜい10万年前までしか測れないから、やっても意味ないよ」と回答してくれました。
今回は、この回答をもとに、
・炭素で測れる年代はいつまでか?
・年代測定をやる意味
について考えてみたいと思います。
【炭素で測れる年代はいつまでか?】
炭素を使った「放射年代測定法」を「放射性炭素年代測定法」といいます。炭素(以下Carbonを意味するCで表します)は、原子番号6の元素です。「水兵、リーベ、ぼくのふね・・・」と口ずさんだ方は、理系かもしれませんね。
炭素には、C12、C13、C14などの、陽子数(=原子番号)が同じで中性子数が異なる、同位体があります。C12は陽子6個と中性子6個を持ち、C13は陽子6+中性子7、C14は陽子6+中性子8、となっています。
このうち、C14は不安定であるため、β線という放射線を放出し(中性子がβ線を放出し、陽子に変化することを、β崩壊といいます)、陽子7個と中性子7個を持つ、窒素14(以下Nitrogenを意味するNとします)に変化します。
これらの変化を式で表すと、下記のようになります。
C14 ⇒ N14 + β線
また、自然界における、C14の循環サイクルは、下記のようになっています。
《解説》C14は太陽から放射する宇宙線が、N14にぶつかると生じると考えられています。動植物が生存中は、食餌や呼吸により、炭素の出入りがあるため、 動植物の体内におけるC14/C12比は、大気中と同じだと考えられます。しかし、動植物が死ねと、炭素の出入りがなくなるため、安定しているC12は体内に留まりますが、不安定なC14は、β崩壊してN14として大気中に逃げていくので、C14/C12比は減少していきます。炭素年代測定は、この性質を利用しているのです。
C14のように不安定な放射性物質は、放射線を放出しながら、安定な物質に変化していくわけですが、この変化する速度は、通常「半減期」であらわされます。半減期とは、放射性物質が半分になる、つまり50%にまで減少するのに要する時間のことです。半減期は、放射性物質によって異なり、C14の半減期は、5730年です。
続いて、放射性炭素年代測定法では、なぜ「10万年前までしか測れない」のか、について解説します。
自然界では、不安定なC14の割合は、安定したC12の大体1兆分の1程度だと言われています。この1兆分の1から、半減期を繰り返すことで、どんどん少なくなっていくのですが、やがて、これ以上は測れないほど小さい値(これを測定限界といいます)に達します。測定限界は、1/1000だと言われ、わかりやすい例えでは、1メートルの物差しの1/1000が1ミリメートルに相当します。
半減期をどれくらい繰り返すと、測定限界に達するのかは、簡単な計算で求めることができます。例えば、半減期を
・2回繰り返すと、元の量の1/4(2の2乗)
・4回繰り返すと、元の量の1/16(2の4乗)
・8回繰り返すと、元の量の1/256(2の8乗)
というように、N回繰り返すと、「2のN乗分の1」になる(指数関数的に減少する)ことがわかります。これを10回繰り返すと、測定限界を超え、1/1024になります。(実際、計算機で2x2x2x2x・・・と、2を10回かけて、ご自分で確かめてみてください)
つまり、C14は、半減期5730年を10回繰り返すと(5730年x10回=57300年)、測定限界を超えてしまうため、理論上、6万年前までしか測定できないのです。
【年代測定をやる意味】
ここで「意味」とは、二つのことを意味しています。
ひとつめとして、化石は、10万年前よりもはるか昔(例えば、アンモナイトは3~4億年前)に生きていたとされている。だから、測定できるほどのC14が残っているわけがない。実際にC14が検出された(つまり10万年以内という結果がでた)としても、それは何らか(例:異物の混入など)の間違いだから、やること自体が無駄である、というものです。電話で回答してくれた方が意味したのは、こういう意味です。
ふたつめの意味は、「炭素」以外の全ての放射年代測定法にも共通して言えることですが、前提条件(仮定)があるということです。
炭素年代測定法の仮定と問題点を下記に示しておきます。
①C14の崩壊速度(半減期)は常に一定である
半減期5730年が常に一定であるかどうかは、実際のところよくわかっていません。多くの科学者が、半減期は環境の影響を受け得ると考えています。
②大気中のC14/C12の比率は、全く変化しない
上の図で示されるように、C14は宇宙線によって生成されますが、地球の磁場は宇宙線を防ぐことがわかっています。つまり磁場が強いとC14が減るわけです。過去に地球の磁場は大きく変動してきたので、C14も変動してきたはずです。また火山活動が活発な時は、CO2として、安定したC12の比率が増えるので、その時代のC14/C12比は、現在よりも低くなるしょう。つまり、C14/C12比は、地域や年代によって差があったと推測され、全く変化しないという仮定は、現実を反映していないかもしれません。
③生きている動植物と大気中のC14/C12比は等しい
生きている動植物内のC14/C12比を測定しても、大気中のC14/C12と異なった値がでることが報告されています。
④生体の死後、C14やC12の出入りはない
動植物の呼吸や食餌摂取が途絶えれば、理論上、炭素の出入りがないはずですが、水や外部物質との接触など、実際は、死後にも炭素が出入りした可能性も否定できません。
以上のことから、年代測定は、さまざまな前提条件(仮定)のもとに計算された数字であり、計算で求められたから正しいという保証はありません。あくまで、仮定が正しければという前提があり、ひとつの目安として考えた方がよいでしょう。
機械を使って「測定」はしていますが、実際は「推定」している、と言った方がよいのかもしれません。
【まとめ】
「炭素では、せいぜい10万年前までしか測れないから、やっても意味ないよ」と回答してくれた方は、決して悪気があったわけではなく、進化論の考え方にそって、化石は数億年前の産物であると信じていたのです。
このような考え方を先入観ととらえることもできるでしょう。なぜなら、自分で実際に数億年だと確かめたわけではないからです。ですから、化石や骨などの標本からC14が検出されたとしても(すなわち、6万年以内を意味する)、「それは、数億年前のものだ」という先入観があるので、先入観が間違いである、とは気づかずに、測定結果が間違いである、と結論づけてしまうのです。
炭素法は、動植物などの生体にしか利用できません。動植物以外の岩石や鉱物の年代を測定するには、ウラン-鉛法やカリウム-アルゴン法などがありますが、これらの測定法にも、炭素法同様、前提条件があります。これについては、また別の機会にとりあげたいと思います。
今年も「若い地球と進化論」をよろしくお願いいたします。