若い地球と進化論

地球の歴史や人間の起源について考えるブログ

鳥の進化論~恐竜起源説 vs 共通祖先説~

これまで2回にわたり「鳥は恐竜から進化したのでしょうか?」と題して、羽毛恐竜が生まれた歴史的背景や鳥と恐竜の違いについてまとめました。

 

昨今では、鳥は恐竜から進化した(=恐竜起源説)と信じている科学者が多数を占めており、あたかも、それが真実であるかのように喧伝されていますが、同じ進化論の立場であっても、別の考え方を持つ科学者もいます。その考え方とは共通祖先説です。今回は「恐竜起源説」と「共通祖先説」の違いについて、同じ化石をみているのになぜ違いが生まれるのか、その理由に迫ってみたいと思います。

 

参考にしたのは、アラン・フェドゥーシアという鳥類学者による「鳥の起原と進化」という本です。たいていの図書館にはおいてありますので、興味のある方は是非読んでみてください。

 

はじめに、鳥の進化に関する2つの考え方を簡潔にまとめます。

 

1.恐竜起源説(地上跳躍説)

鳥類の恐竜起源説が最初にでたのは、100年以上も前、ダーウィンのブルドック(擁護者、番犬)と言われたトーマス・ハクスレイによってですが、再び脚光を浴びるようになったのは、1964年にジョン・オストロムが、始祖鳥によく似たコエルロサウルス類である、デイノニクス(恐ろしい爪の意)の化石を発見してからです。

映画「ジュラシック・ワールド/炎の王国」にでてくる知恵のある恐竜(人の言葉がわかるみたいですね)は、ヴェロキラプトル(体高約50cm)にちなんで、ラプター猛禽類という意味)”と呼ばれていますが、実は、同じコエルロサウルス類デイノニクス(体高約90cm)がモデルになっているそうです。 

映画「ジュラシック・ワールド」www.youtube.comより

 

恐竜は、骨盤を形成する恥骨の向きによって、鳥類のように恥骨が後ろ向きのものを鳥盤類ステゴサウルス等)、ワニのように前を向いているものを竜盤類といいます。

竜盤類は、草食性の竜脚類アパトサウルス等)と肉食性の獣脚類に分けられ、獣脚類はさら小型のコエルロサウルス類大型のカルノサウルス類ティラノサウルス等)に分けられます。

恐竜起源説によれば、鳥類は、小型の肉食恐竜であるコエルロサウルス類から進化したと考えられています(下図参照)。

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恐竜起源説による鳥の進化系統図

 

恐竜起源説は、地上跳躍説とも言われます。『肉食恐竜が、獲物を追って地上を速く走れるようになり、四足のうち後足は走ることに特化し、前足は獲物を捕えるために使われるようになった。そのうちに跳躍を覚え、獲物を捕える手の動きが羽ばたきとなり、羽毛(特に風切羽)が生えて、飛べるようになった』というものです。

 

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地上跳躍説(Drawing by Mark Hallett)

 

2.共通祖先説(樹上滑空説)

次にもうひとつの考え方、アラン・フェドゥーシアを始め一部の鳥類学者に支持されている「共通祖先説」を紹介します。この説によれば、鳥類も恐竜も「槽歯類(そうしるい)」という共通の祖先から進化したとされています。槽歯類というのは、「ソケットにおさまった歯」を意味し、爬虫類、翼竜類を広く含む分類です(下図参照)。

共通祖先説は、鳥類の祖先は樹上から進化したという考え方です。『樹上生活を営む共通祖先が、樹々を移動するために滑空を覚え、羽毛が発達し、はばたきを覚えるにつれ、飛べるようになった』というものです。「地上跳躍説」に対し「樹上滑空説」と言えるでしょう。

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(鳥と恐竜)共通祖先説による進化系統図

 

上記2つの進化系統図を比べるとわかるように、赤で示されている「鳥類」の位置以外に違いはありません。つまり「鳥の進化のプロセス」についての考え方の違いが、化石の解釈に影響を与え、進化の系統図の違いとなって表れているのです。

 

続いて、2つの考え方の違い、特に竜起源説に対する共通祖先説の反論」について下記にまとめました。

 

1)始祖鳥問題

進化論によれば、始祖鳥はおよそ1億5千万年前に生息していたとされています。しかし、恐竜起源説オストロムによって発見されたデイノニクスは、始祖鳥より4千万年も新しいのです。デイノニクスに代表されるコエルロサウルス類が鳥の起源とするなら、恐竜が鳥へ進化したとされる時期の4千年前に、完全な羽毛をもつ鳥(始祖鳥)が存在していたことになります。

恐竜起源説では、始祖鳥を鳥、あるいは現代の鳥類の直接の祖先であるとは認めたがりません。それは、この時代の逆転が理由のひとつだと考えられます。

また「鳥は恐竜の生き残りである」という主張も、鳥類と恐竜を「恐竜」としてまとめることによって、時代逆転の問題を回避できるからなのかもしれません。

 

一方、鳥の専門家であるフェドューシアは、始祖鳥完全な鳥である、と考えています。その理由のひとつに、始祖鳥の化石にみられる後指(第1指)が完全に後ろを向いており、反対向き(前向き)の3本の前指によって、枝をしっかりつかむことができるからです。

これは現代の鳥と全く同じ構造です。始祖鳥が鳥類の祖先であるなら、木の枝をしっかり掴めたことは、樹上滑空説を支持する証拠と言えるでしょう。

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始祖鳥の想像図(©N.Tamura from Wikimedia Commons)

 

2)2足歩行への進化:上肢/下肢の比率

恐竜の系統進化の過程において、下肢に対する上肢の長さの比率は少しずつ短くなっていることが知られています。

例えば、三畳紀後期(およそ2億年前)のエオラプトル(体長約1m)という原始獣脚類では、後肢に対する前肢(上腕+前腕)の長さの割合50%ですが、 白亜紀後期(およそ9千万年前)のティラノサウルス(体長約12m)では25%程度しかありません。

獣脚類は、4足歩行の恐竜が2足歩行に進化したものと考えられていますが、2足歩行でバランスをとるためには、尾が太く長くなり、前肢が短くなる必要があります。また、人と比べるとわかりますが、体も随分と巨大化していますね(下図参照)。

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(左)エオラプトル骨格(licenced by Creative Commons) (右)人間との比較

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(上)ティラノサウルス骨格(licensed by Creative Commons) (下)人間との比較

 

一方、飛行する脊椎動物は、前肢が長くなる傾向があります。コウモリなどの哺乳類、アホウドリなどの鳥類では、翼開長(翼を広げた長さ)は、体長の2倍以上になります。

飛ぶためには体重を軽くする必要がありますが、その前に推進力を得、速く走るためには、体重だけでなく前肢も短い方が有利です。けれども、短い前肢にいくら羽が生えたところで跳び上がることすらできないでしょう。

また前肢に羽が生えれば、今度は空気抵抗となって推進力維持には不利になり、羽ばたくためには、今度は重い筋肉が必要になってくるのです。

このように、恐竜起源説によると、獣脚類の上肢と下肢の比率と大きさは、進化の過程に逆行しているというわけです。

 

3)羽毛の進化

恐竜起源説では、恐竜が地上から獲物を追って跳躍するために、まず、活動性の高い、内温性(体温を維持できる)動物に進化する必要があります。そのため、うろこから羽毛への進化は飛ぶためではなく、(寒くて獲物が捕れないでは困りますから)素早く動くため、すなわち体温を維持するために起こったと考えられています。鳥の直接の祖先ではない、ティラノサウルスのような大型の肉食恐竜にも羽毛が生えて描かれているのは、おそらくそのためでしょう。はたして、羽毛への進化は本当でしょうか?

 

①羽毛の領域

爬虫類は全身うろこに覆われています(恐竜もそうだったと考えられます)が、全身にくまなく羽が生えた鳥は、実は稀です。むしろ羽は非常に狭い領域にしか生えていません。つまりうろこが羽に進化したという説には無理があるのです。

下に示したのは、スズメのヒナ(巣から落ちて死んでしまったもの)の写真ですが、これを見ると羽毛の領域がわかります。背部には正中に茶色い羽毛がありますが、その両脇に羽毛はありません。一方、腹部では正中に羽毛はありませんが、その両脇には羽毛が生えています。

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スズメの幼鳥(左:背部、右:腹部)

②羽毛の保温性

恐竜起源説では、保温のためとされている羽毛ですが、いわゆる綿毛の状態では雨に濡れると保温効果を失ってしまうことが知られています。例えば、ダチョウのヒナは雨に濡れると体温が下がって死んでしまうため、親鳥が雨に濡れないように守ってやらなければなりません。

 

③羽毛は退化の結果

現代の鳥類で、飛行能力を失った鳥が持つ綿毛は、飛ぶための羽=風切羽等が、二次的に退化したものだと考えられています。ですから、鳥類学者から見ると綿毛から風切羽への進化は、観察される証拠とは真逆であり、恐竜起源説は理屈が通らないということなのでしょう。

 

以上、鳥の進化について2つの考え方とその違いについて紹介しました。今回のポイントをまとめます。

 

  1. 進化のプロセス(地上跳躍説vs樹上滑空説)についての考え方の違いが、進化系統図の違いとなって現れている。
  2. その理由は、進化のプロセスに対する考え方が違うと、同じ化石をみても、その解釈が異なるからである。
  3. つまり、科学者たちは、自分の考え(信念)に合うように、化石(証拠)を解釈する傾向があるといえる。

 

起源の問題を取り扱う古生物学が、科学の分野のひとつであることは疑う余地がありません。けれども古生物学は歴史科学に分類されます。ですから「証拠の解釈」については、個人の「信念=信仰」に影響される、これが古生物学の特徴なのです。