前回までの「恐竜」に代わって、今回は「人間」についての話題です。
進化論では、あらゆる生物は木が枝分かれするように共通祖先から進化したと考えられています。人間も例外ではなく、現存する生物の中で最も人間と近縁なのはチンパンジーとされていて、約600万年前に人とチンパンジーの共通祖先から分岐したことになっています。そして、人とチンパンジーの遺伝子の相同性が約99%であることが、この説の証拠であると言われています。
一方、聖書(創世記)によれば、人間は初めから人として造られたと書かれています。初めにアダムが、そしてアダムの体の一部からエバが造られたというわけです。
進化論者の中には、聖書に書かれていることは信じていないが、人とチンパンジーの遺伝子の約99%が同じである、という説に異をとなえる科学者もいます。
2007年、かの有名なサイエンス誌にも、Relative Differences: The Myth of 1%(1%の神話)というタイトルで記事が載りました。こちらは全文をみることができないので、アメリカ・ジョージア州アトランタにあるイェークス国立霊長類研究所の科学者による論文を紹介します。
”Human brain evolution: From gene discovery to phenotype discovery(人の脳における進化:遺伝子型でわかること、表現型からわかること)
この論文の「要約(太字部分の6行目以降)」には
It is now clear that the genetic differences between humans and chimpanzees are far more extensive than previously thought; their genomes are not 98% or 99%
”人とチンパンジーの遺伝子の違いは、これまで考えられてきた1~2%の違いではなく、それよりもずっと大きいことが明らかになった”と述べられています。
それでは、人とチンパンジーの遺伝子は一体どれくらい似ているのでしょうか?また、99%にこだわる理由は何でしょうか?私は遺伝学の専門家ではありませんが、「遺伝子の相同性」について、3つの視点から考えてみたいと思います。
1 遺伝子配列
2003年までに人の全ゲノムが解読されました。ゲノムとはGene(遺伝子)とChromosome(染色体)をかけあわせた造語です。つまり人の染色体に含まれる全遺伝子が解読されたわけです。遺伝子を構成するのがDNAで、DNAは塩基によって、A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4種類に分けられます。
遺伝子とは、この塩基配列によって後世に伝えられる情報のことを指しています。全ゲノムが解読されたとは塩基配列がわかったということですが、塩基配列を決定する技術は完全ではなく、まだまだ改善の余地があるとされています。
さて、2つの異なるものを一致させることをアライメント(alignment)、順序のことをシーケンス(sequence)と言いますが、人とチンパンジーと遺伝子の塩基配列の相同性を調べるには、シーケンスアライメントという手法を用います。この時、コンピューターによって人の塩基配列に合うようにチンパンジーの塩基配列を並べていくのですが、一致しない配列がでてきます。一つは「置換(substitutions)」、もう一つは「挿入または欠失(indel)」です(下図参照)。
図1 シーケンスアラインメント(上が人間、下がチンパンジー)
置換とは、塩基配列の中で、一つの塩基だけが異なるもの(例えば、人ではAなのにチンパンジーではGなど)です。挿入・欠失とは、塩基がどちらかにはあってどちらかにはないもの(例えば、人ではTTGCという配列がチンパンジーでは欠けている)です。
実は、99%の計算根拠に「置換」領域は含まれていますが、「挿入・欠失」領域は含まれていません。つまり分母(総塩基配列)に「挿入・欠失」領域が含まれていないため、みかけ上の相同性は高くなるのです。
2 遺伝子表現型
先ほど、遺伝情報は塩基配列によって決まるというお話しをしましたが、正確には、遺伝情報は塩基配列だけで決まるわけではありません。DNAには、エピジェネティックス(epigenetics;Epi=超える+Genetics=遺伝学)と呼ばれる機能があり、塩基配列による遺伝情報を修飾しています。
図2 エピジェネティックスのメカニズム
上図右にある、オレンジ色の五角形=エピジェネティック因子(Epigenetic Factor)というものがそれです。簡単に言うと、文章における句読点のような存在です。
例えば、A woman without her man is nothing という文があったとします。これがDNA塩基配列に相当します。この文に、句読点を2箇所つけてみます。
A woman, without her man, is nothing ⇒ 男なしでは、女はやってけない
A woman: Without her, man is nothing ⇒ 女なしでは、男はやってけない
2つの文は単語が同じ順序に並んでいますが(つまり塩基配列が同じ)、句読点のつけ方によって、全く逆の意味の異なる文章になってしまいました。 これがエピジェネティック因子の働きです。
例えば、人とチンパンジーの好中球(白血球の種類)についてみると、DNA塩基配列が同じですが、エピジェネティックスが異なることが知られています。霊長類研究で有名な京都大学霊長類研究所の年報にも、塩基配列の違いはわずか1%強であるが,表現型には大きな違いがあることが報告されています(下記参照)。つまり塩基配列が同じであっても、伝えられる遺伝情報は異なっているのです。
3 偽遺伝子
ジャンクDNA(がらくた遺伝子)という言葉はご存じでしょうか。意味をなさない、つまり機能しない遺伝子のことで、かつては、全DNAのうち98%は機能していない、と言われていました。しかし、研究が進めば進む程、がらくたと思われていたものが、重要な機能を持っていることがわかってきています。つまり、全ゲノムを解読したと言っても、その機能については、2%程度しかわかっていなかったということです。
ジャンクDNAのうち、過去には機能があったと推測されるが、進化の過程でその機能を失ったものを「偽遺伝子」と呼んでいます。人とチンパンジーに共通した「偽遺伝子」があることが、共通祖先をもつ証拠とされていますが、これらの偽遺伝子に、実は重要な機能が発見されており、偽遺伝子の存在が共通祖先の証拠であるとは言えなくなってきています。
また、DNAの塩基配列には、エクソンとイントロンが存在し、RNAに転写される時に、イントロンが省かれます。人とチンパンジーが最も近縁だとされる理由は、塩基配列が似ているからですが、例えば、ビタミンCに関連するGULO偽遺伝子のエクソンを調べると、エクソンによって、人(Human)と最も近縁である類人猿が異なることが知られています(下図参照)。
図3 6つのエクソンによる類人猿との近縁性の違い
例えば、Exon1をみればゴリラが最も近縁となり、Exon6からはオランウータンが最も近縁な種類となります。もし、チンパンジーが人と最も近い共通祖先から分岐したのが本当であれば、どのExonを調べてもチンパンジーが最も近縁であることが示されるはずですが、実際はそうではありません。
かつて、チンパンジーではなくオランウータンが人間に最も近いというニュースが話題となりましたが、大きなインパクトは残しませんでした。見た目や生活様式が人とあまりに違うので、賛同者が少なったのでしょう。
以上のことから何が言えるのでしょう。進化論を正しいと信じているなら、人に最も近いのは、チンパンジーでもオランウータンでもどっちでもいいということになるのかもしれません。けれども、科学的に言えば、遺伝子の分析方法によって結論が異なる、というのは、本来とてもおかしなことです。
異なった分析結果がともに正しいということはありません。どちらかが正しく、どちらかが間違っている、あるいは両方間違っている、のどちらかしかありません。そして、どれが正しいのかを決められないなら、その「分析方法を選んだこと」が間違っているか、あるいは、分析の前提である「人と類人猿は共通祖先から進化したという考え方」が間違っていることになります。
進化論が正しければ、遺伝子を分析することは理にかなっています。だとすれば、分析の前提、つまり、「共通祖先から進化した」という考え方が間違っている、ということになると思います。
下記のビデオは、MinuteEarthという団体が作ったビデオですが「99%という数字の信ぴょう性」について解説しています。
このビデオでは、99%という数字の間違いを指摘しながらも、人間がチンパンジーとの共通祖先から進化したことについては否定していません。しかし、遺伝子の違いがあまりに大きければ、一定時間に起きる突然変異の頻度を考えると、共通祖先からの分岐は、600万年前よりはるか昔になります。そうすると進化の時間軸を大きく変更しなければなりません。進化論で遺伝子の相同性99%にこだわるのは、実にそのためなのです。
まとめ
・進化論を前提にした遺伝子分析では、人と最も近縁な類人猿を決めることができない。共通祖先から進化した、という進化論の前提が間違っている可能性が高い。
・人と類人猿の遺伝子の違いが大きければ、共通祖先からの分岐は考えられているよりも、はるか昔となる。とすると進化の歴史は大きく書き換えなければならない。