前回の記事:「昔」は測れるの?:炭素年代測定のナゾ - 若い地球と進化論
では、炭素を使った年代測定法についてお話ししました。
炭素年代測定法のポイントは、
① 5~10万年前までしか測れない
② さまざまな仮定(前提条件)があり、測定はしているものの、実際は推定しているに過ぎない、とうことでした。
今回は、炭素では測れない昔、つまり10万年以上の、もっと古い「昔」を測定する方法についてお話しします。前回「半減期」って何?って思う方もいらしたと聞いたので、半減期について、少し詳しく説明してみたいと思います。
【半減期とは?:年代測定法の原理】
全ての年代測定法に共通ですが、年代"T"を求めるために必要な情報は、測定する物質(元素)の初期値(その物質が生まれたときの数値)"V₀"、どのように減っていくか、という規則性"R"、そして、物質の現在値(測定結果)"V"、以上3つです。
「炭素測定法」を例にとれば、下記のようになります。
V₀(初期値):現在の空気中のC14/C12の比率(過去も現在と同じ比率だと仮定)
R(規則性):C14の半減期=5730年(過去に変化なしと仮定)
V(測定値):測定する標本中のC14/C12の比率( 過去に外部環境とC14のやりとりは、なかったと仮定)
これらの関係を式で表すと、
V = V₀ x 1/2 x 1/2 x 1/2・・・
ここで、VとV₀の関係が1/2をn回かけたもの(1/2のn乗)だったとすると、
T = 5730年(半減期) x n
となります。
「半減期」を難しく感じる理由のひとつは、規則性"R"、すなわち、一定の時間に減る量が時間とともに変化するからではないでしょうか。
《ケーキの例え》
ケーキを例に説明してみましょう。
ケーキを少しずつ食べるとした時、普通は、 もとの量(初期値=全部)に対して一定の割合を決めて、食べていく(減っていく)と思います。下の左図では、ケーキの「8分の1」カットずつ、つまり12.5%ずつ減る「等分」という考え方を示しています。このように食べていけば、8回食べると、ケーキは全部なくなってしまいますね。
一方、右図では半減期の考え方を示しています。常に残った量の半分ずつ食べて(減って)いくと、青(50%)⇒赤(25%)⇒緑(12.5%)⇒紫(6.25%)というように、回を重ねるごとに、食べる量がどんどん小さくなり、7回目の水色は0.78125%となります。
(8回目のピンクの量は、本来は水色の半分である、0.390625%になるはずですが、8回目で終了としたので、水色と同じ、0.78125%の大きさで示されています)
いかがでしたか?少しはイメージはつかめたでしょうか?
【もっと「昔」を測るには?:カリウム-アルゴン法】
化石や地層をみたとき、いつできたのだろう、と疑問を感じたことはありませんか? 実は、前回とりあげた「放射性炭素測定法」によって、化石(生物)や石炭(植物)だけでなく、石灰岩や大理石など炭素を含む岩石も測定することができます。
けれども、前回お話ししたように、化石や地層は、炭素法では測れない位、古いものである、という「先入観」があり、もし測れた(つまり数値がでた)としても、それは測定誤差(間違い)なので、測る意味がない、と考えるため、化石や地層の年代決定に炭素法が採用されることはありません。
そこで、化石や地層の年代測定には、炭素よりも「半減期」の長い元素を利用した方法が用いられます。その中で、最もよくつかわれるのが、カリウム-アルゴン(K-Ar)法です。この方法によって、溶岩の年代を推定することができるとされています。
《カリウムーアルゴン法の原理》
カリウムーアルゴン法の原理について説明します。炭素法においては、不安定なC14(炭素14)が安定なN14(窒素14)に変化する性質が利用されます。同様に、カリウムーアルゴン法においては、不安定なK(カリウム)が安定したAr(アルゴンガス)に変化するという性質を利用します。
溶岩は火山の噴火によってできます。噴火時の溶けた溶岩は、固まる過程で緻密な構造になるため、噴火後に溶岩の中で起きた、カリウムからアルゴンへの変化、すなわちアルゴンガスは、溶岩の中に閉じ込められていきます。こうして、時間とともに、カリウムから変化し、蓄積したアルゴンガスを測定することによって、噴火の時期を推定できるというのが、この方法の原理です。
先ほどのように、年代"T"を求めるために必要な情報を下記に記します
V₀(初期値):噴火時の溶岩中のアルゴンガス
V(測定値):固まった溶岩中のアルゴンガス
カリウムーアルゴン法がよく使われる理由は、初期値(V₀)をゼロとみなすことができるという利点があるからです。なぜかというと、噴火直後の溶岩はとても熱いため、溶岩が固まる前に存在していたアルゴンガスは、全て消失したはずである、だから、目の前の溶岩で測定されたアルゴンガスは、全て噴火以後のものである、という仮説を立てられるからです。
しかし、実際の溶岩は非常に分厚く、固まる前に全てのアルゴンガスが消失したと考えるのは無理があるのではないか、ということは、専門家の間でも指摘されていました。
実際、いつ噴火したのかがわかっている溶岩をサンプルとして、アルゴンガスを測定したところ、下記の結果であったことが知られています。
溶岩の名前 | 場所 | 火山噴火の年度 |
K-Ar法(アルゴンガス)による年代 |
Hualalai玄武岩 | ハワイ | AD1800年頃 | 160~2100万年前 |
Kilauea玄武岩 | ハワイ | 200~1000年以内 | 800~4290万年前 |
Mt.Etna玄武岩 | シチリア | AD1792年 | 35万年前 |
Sunset噴火口玄武岩 | アリゾナ | AD1064年 | 27万年前 |
Mt.Lassen斜長石 |
カリフォルニア |
AD1915年 | 11万年前 |
この表から、アルゴン法はあてにならないことがわかります。また、噴火の年度が新しければ、アルゴンガスが少ないかと言えばそうでもなく、火山噴火の年度とアルゴンガスの測定結果の間には、何ら関係はありません。
これは、噴火当初、溶岩の中に残っていた、いわゆる、過剰アルゴンの量によって、測定結果が決まったからなのです。
つまり、過剰アルゴンによって、実際の年代よりも古い年代だと測定されてしまったのです。
以上からわかるように、放射性年代測定法は、どんな元素を使ったとしても、その結果の解釈には十分な注意が必要です。また、放射性物質を使った方法以外であっても、過去を測るには、仮定や前提条件が必ず存在する、ということは、是非覚えておく必要があると思います。
特に、測定する年代が古いほど、さまざまな影響を受けている可能性が高く、仮定が真実であったという可能性は、逆に下がってくるのです。
今回の記事は、下記の本を参考にさせていただきました。韓国ハンドン大学教授(地質学者)イジェマン先生の書いた本です。是非、一度手にとってご覧になってください。